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研究内容

衝撃波における高エネルギー宇宙線の統計加速

 地球には、宇宙から10の20乗電子ボルトにまで及ぶ宇宙線粒子がやってきています。そのうち、10の15乗電子ボルト以下のエネルギーを持つ宇宙線は、我々の銀河内にある若い超新星残骸(Supernova Remnant, SNR)起源であると考えられています。超新星残骸とは、太陽より重い星が引き起こす超新星爆発の後に残される残骸で、秒速数千kmで膨張している。大きさ数10光年、温度数千万度のガス球です。ガス球は強い衝撃波を伴って膨張しており、この衝撃波で宇宙線が生成されると考えられています。 我々はこのような宇宙線粒子の加速機構についての理論的研究、観測的研究を行っています。
 また、このような非熱的な高エネルギー粒子の加速機構は、高エネルギー天体現象において基本的かつ重要な物理過程のひとつであり、超新星残骸に限らず太陽、地球周囲の磁気圏からパルサー星雲、ガンマ線バースト、活動銀河核ジェットや銀河団の大規模な構造形成時などに普遍的に存在します。そこでの宇宙線粒子加速過程は多彩な高エネルギー天体現象のもとになります。 さらに、地球に降り注ぐ高エネルギー宇宙線の中には、超新星残骸などの天体現象だけでは説明できない陽電子や反陽子などの反物質も含まれています。ひょっとすると、これらは人類のまだ知らない未知のダークマター(暗黒物質)や原始ブラックホールがもとになってできた高エネルギー粒子という可能性もあり、素粒子物理学とも密接に関連する研究分野になっています。

ガンマ線バースト(Gamma-Ray Burst, GRB)

 ガンマ線バースト(GRB)とは、数10keV から数 MeV のガンマ線が、ミリ秒から1000秒のあいだ、バースト的に観測される天体現象で、およそ1日1回の頻度で観測されています。GRB は100億光年(典型的には赤方偏移は1程度)以上の彼方からやってきます。 放射されるガンマ線の全エネルギーは10の52乗エルグ(地球1000個分の質量エネルギーに相当します)以上に及び、宇宙で最も劇的な爆発現象であるといえます。発見されたのは1970年代ですが、30年以上経った今でも、その正体は未解明です。理論的・観測的制限から、GRB はわれわれに向かう相対論的ジェット(つまり、ほぼ光速で進むジェット)から生じると考えられていますが、そのジェットを生み出す中心天体はまだよく理解されていません。我々は、主に理論的に、ときには観測データの解析も行いながら、GRB の正体解明を目指しています。
 ガンマ線バーストには継続時間の短いものと長いものがあります。継続時間の長いものは、特別な超新星爆発に関連する現象だと考えられています。ところで、宇宙が生まれてから間もない時期(数億年くらい)に生まれた星は超新星爆発を起こすような重い星が多く、これらは GRB を引き起こすと考えられます。GRB はとにかくとても明るい現象なので、GRB はたとえ宇宙の果てで発生したとしても観測できてしまいます。地球から遠く離れれば離れるほど、それははるか昔に起こった天体現象なので、いままでに検出された GRB やこれから検出される GRB の中には、もしかしたら、宇宙で最初にできた星(ファースト・スター)があるかもしれません。
 一方で、継続時間の短い GRB は、中性子星2つがペアとなった連星中性子星や、ブラックホールと中性子星の連星が合体する際に発生すると考えられています。このときに中性子星やブラックホールといった強い重力場が激しく変動するときには、重力波というものが放射されます。これは、アインシュタインの一般相対性理論で予言された時空のさざ波で、2017年8月に史上初めてガンマ線バーストと同時に観測されました。これからしばらくは重力波とガンマ線バーストとの関連を調べる研究が重要となるでしょう。

重力波(Gravitational Waves)

 重力波とは、重力場の揺らぎが空間中を伝わる波動で、アインシュタインの一般相対性理論により予言されました。重力波が通過すると時間や空間的長さが伸び縮みします。2015年9月に米国の Advanced LIGO チームが世界ではじめて重力波を検出し、重力波天文学の時代がスタートしました。その後、ブラックホール連星や、中性子星連星の合体にともなう重力波が次々と検出されています。日本でも大型低温重力波望遠鏡「KAGRA」が稼働準備をしていますが、我々も KAGRA チームに参加し、重力波のデータ解析や運用作業に携わっています。とくに、ガンマ線バーストに伴う重力波が検出されればガンマ線バーストの理解が進むと期待しています。

パルサー(Pulsar)

 パルサーは、パルスを発する天体で銀河系内に2000個以上見つかっているありふれた天体です。正確な周期を刻むパルス放射は、星の回転に起因していると思われています(灯台効果と呼ばれています)。最短のもので1ミリ秒程度という短い周期の星の回転を重力で支えているため、パルサーは中性子星であることがわかっています。中性子星とは半径10kmにして太陽程度の質量を持つ高密度天体で、1934年に中性子の発見からわずか二年後に理論的に予言され、1967年にパルサーとして存在が確認された天体です。パルサーが回転中性子星であり、典型的に10億テスラという強力な磁場を持つことは状況証拠より明らかですが、パルサーという名の起源であるパルス放射のメカニズムは未だ謎です。太陽が太陽風というプラズマ風を吹き、100AU(1AU=1億5000万kmです)を超える太陽圏という影響領域を形成していることがわかっていますが、パルサーもパルサー風を吹き、10万AUを超えるパルサー星雲という影響領域を形成しています。半径たった10km(太陽は半径70万km)の天体が及ぼす影響領域としては巨大であり、このパルサー風のメカニズムもパルス放射と並び、未解決問題です。これらパルサー周辺で繰り広げられる相対論的高温プラズマ現象の未解決問題について様々な視点で研究を行っています。

宇宙現象を地上に再現する実験室宇宙物理学

 当然ながら地球から遠くはなれた超新星残骸などの天体には行くことができません。そのため、それらの天体現象を明らかにする手段は、天体の放つ電磁波(電波、可視光、X線、ガンマ線など)を観測することに限られます。しかし、限られた情報からすべてを解明するのは難しい場合が多いのです(だからこそ楽しいのではあるが)。ならば地球上に宇宙と同じものを作ってしまえば、自分たちで条件もコントロールできるし、天文観測とは桁違いに豊富なデータが得られて良いではないか!というのが実験室宇宙物理学という新しい学問分野です。例えば地上に大型レーザーを用いて希薄プラズマ中にできる衝撃波を作ることを目指した研究が行われており、我々もこの実験に参加しています。得られた実験データをもとに、ガンマ線バーストや超新星残骸での宇宙線粒子加速のメカニズムを解明することを目指しています。