Macroscopic Quantum Tunneling (MQT)

巨視的量子トンネル現象(Macroscopic Quantum Tunneling,略してMQT) は、ジョセフソン効果の量子力学的な性質を最もはっきり示す現象の1つ であり、概念としても非常に普遍的な内容を含んでいます。 しかしながら、MQTを一言で説明するのは決して簡単ではありません。 あえて言うなら、「MQTとは巨視的な物理量(巨視的自由度、あるいはマクロ変数とも言う)の 時間発展を示す空間における量子トンネル現象である」と表現されます。 傾けた洗濯板上の仮想的な位相粒子の運動モデルで言うと、 洗濯板のくぼみの1つに留まっていた仮想的な位相粒子が隣のくぼみとの間にあるポテンシャル障壁を量子トンネルする現象として理解されます。

傾けた洗濯板上の粒子のモデル

熱活性的脱出過程と巨視的量子トンネル過程

MQT状態が実現するためには、仮想的な位相粒子がポテンシャル障壁を熱的に脱出する過程が十分に 抑制される必要があります。具体的には、量子力学の不確定性原理に由来する量子的な揺らぎに比べて熱的な揺らぎが十分に抑えられなければなりません。 ジョセフソン接合の場合、洗濯板のくぼみ部分に留まる仮想粒子がくぼみの内側を行き来する不確定性は、 くぼみ部分を放物線(調和振動子モデル)で近似した場合の振動数(ジョセフソンプラズマ周波数)で決まるため、 そのエネルギー(ℏωp)よりも熱エネルギー(kBT)が小さくなる必要があります。 このMQT状態が実現すると、くぼみ部分に留まる仮想粒子のエネルギー状態は、初等的な量子力学で登場する井戸型ポテンシャル中の粒子と同様に離散化します。 ジョセフソン量子ビットは、この離散化したエネルギー準位の2つ(例えば、基底状態と第一励起状態)を用いて構成されます。 現在、ジョセフソン量子ビットを利用して将来の量子コンピュ−タ−実現に役立てようとする挑戦が、IBMやGoogleの研究所をはじめ、 世界中で繰り広げられています。しかしながら、現在のジョセフソン量子ビット研究では、主として従来超伝導体のアルミニウムやニオブのジョセフソン接合が 利用されており、数十ミリケルビンという極低温環境でのみジョセフソン量子ビットを操作できる状況が続いています。