銅酸化物高温超伝導体は、超伝導層と非超伝導層(銅酸化物系の場合、電荷供給層と呼ばれる絶縁体層または常伝導層)が交互に積み重なった結晶構造を取ります。 Bi系銅酸化物超伝導体のように非超伝導層が絶縁体(BiO層)の場合、超伝導層同士が弱く結合したジョセフソン接合が結晶中に自然に埋め込まれた 「固有ジョセフソン接合(Intrinsic Josephson Junction, 略してIJJ)」系を形成します(図1)。 AlやNbなどの従来超伝導体の薄膜試料から人工的に作製される従来のジョセフソン接合に比べて、 固有ジョセフソン接合系は、超伝導層(ジョセフソン接合素子の超伝導電極に相当)が極端に薄く、かつ複数の接合が原子スケールで結合している点 (Bi2212の場合、超伝導層の厚み〜0.3 nm、超伝導層間の距離〜1.2 nm)が際立った特徴です。 このため、固有ジョセフソン接合内のあるジョセフソン接合でクーパー対の量子トンネルが起こると、その影響が隣のジョセフソン接合にまで波及し、 従来のジョセフソン接合アレイ系には見られなかった複雑で強い接合間相互作用が重要になると期待されます。 固有ジョセフソン接合系の物理は、1990年代前半に固有ジョセフソン効果が発見されて以降、 ジョセフソンプラズマ共鳴の観測やそれを用いた渦糸磁束状態の研究のほか、微小サイズに加工した固有ジョセフソン接合素子における 巨視的量子トンネル(MQT)現象の観測(2005年)や 交流ジョセフソン効果を用いたTHz波の発生(2007年)などが報告され、現在も活発な研究が続いています。
 北野研究室では、集束化イオンビーム(FIB)装置を用いて1ミクロン程度の接合サイズに微細加工した素子(図2)を作製し、 多重ブランチ構造と呼ばれる特徴的な電流電圧特性(図3)を測定し、複雑な位相ダイナミクスの解明に取り組んでいます。

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図1 Bi2212の固有ジョセフソン接合構造

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FIB装置で加工された固有ジョセフソン接合素子

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固有ジョセフソン接合の電流電圧特性