研究内容

青山学院大学 山崎 了: 「高エネルギー宇宙物理学」といわれる分野に興味をもって研究をしています。 自己紹介はこちら



ガンマ線バースト (Gamma-Ray Burst, GRB)

 ガンマ線バースト(GRB) とは、数 10 keV から数 MeV のガンマ線が、 ミリ秒から1000秒のあいだ、バースト的に観測される天体現象で、 およそ1日1回の頻度で観測されています。 GRB は100億光年 (典型的には赤方偏移は1程度) 以上の彼方から やってきます。 放射されるガンマ線の全エネルギー は 10の52乗エルグ (地球1000個分の質量エネルギーに相当します) 以上に及び、 宇宙で最も劇的な爆発現象であるといえます。 発見されたのは1970年代ですが、30年以上経った今でも、 その正体は未解明です。理論的・観測的制限から、GRB は われわれに向かう 相対論的ジェット (つまり、ほぼ光速で進むジェット) から 生じると考えられていますが、 そのジェットを生み出す中心天体はまだよく理解されていません。 我々は、主に理論的に、ときには観測データの解析も行いながら、 GRB の正体解明を目指しています。

ガンマ線バーストには継続時間の短いものと長いものがあります。 継続時間の長いものは、特別な超新星爆発に関連する現象だと考えられています。 ところで、宇宙が生まれてから間もない時期(数億年くらい)に生まれた星は 超新星爆発を起こすような重い星が多く、これらはGRBを引き起こすと考えられます。 GRBはとにかくとても明るい現象なので、GRBはたとえ宇宙の果てで発生したとしても 観測できてしまいます。地球から遠く離れれば離れるほど、それははるか昔に起こった天体現象 なので、いままでに検出されたGRBやこれから検出されるGRBの中には、 もしかしたら、宇宙で最初にできた星(ファースト・スター)があるかもしれません。

一方で、継続時間の短いGRBは、中性子星2つがペアとなった連星中性子星や、ブラックホールと中性子星の連星 が合体する際に発生すると考えられています。 このときに中性子星やブラックホールといった強い重力場が激しく変動するときには、 重力波というものが放射されます。これは、アインシュタインの一般相対性理論で 予言された時空のさざ波で、2017年8月に史上初めてガンマ線バーストと同時に観測されました。 これからしばらくは重力波とガンマ線バーストとの関連を調べる研究が重要となるでしょう。

  • 「ガンマ線バーストの統一モデルの構築」: 2004年4月執筆。
  • 「ガンマ線バースト-現代宇宙物理学での最大の謎-」: 物理学会誌2005年5月号掲載。
  • 中国放送 「広島大学テレビセミナー」シリーズ1 「かなた望遠鏡で行く 広島発!宇宙探索の旅」 の第3回に出演。
  • Fermi関連のプレスリリース: 「2009年5月10日に発生したGRBから特殊相対性理論の高精度のテストに成功」 (2009年10月28日)
  • 2010年3月25日に、2009年度日本天文学会研究奨励賞を受賞しました。
    研究テーマ: 「ガンマ線バーストの多様性に関する理論的研究」
  • 2011年1月8日に、大成高校の生徒さんたちに模擬授業を行いました。
  • Fermi関連のプレスリリース: 「近所で爆発した宇宙のモンスター:ガンマ線バースト」 (2013年11月22日):
  • GRB 221009A: 一万年に一回の確率で起きた、近くて大規模なガンマ線バースト (2023年3月29日): 関連論文1, 関連論文2: プレスリリース


  • 重力波 (Gravitational Waves)

    重力波とは、重力場の揺らぎが空間中を伝わる波動で、アインシュタインの一般相対性理論により予言されました。 重力波が通過すると時間や空間的長さが伸び縮みします。 2015年9月に米国のAdvanced LIGOチームが世界ではじめて重力波を検出し、重力波天文学の時代がスタートしました。 その後、ブラックホール連星や、中性子星連星の合体にともなう重力波が次々と検出されています。 日本でも大型低温重力波望遠鏡「KAGRA」が稼働準備をしていますが、我々もKAGRAチームに参加し、 重力波のデータ解析や運用作業に携わっています。 とくに、ガンマ線バーストに伴う重力波が検出されればガンマ線バーストの理解が進むと期待しています。

  • 「第18回 林忠四郎記念講演会」を開催 (2018年7月25日)。
  • 講演会「ブラックホールの影と音〜影法師のささやき」を開催 (2019年7月26日)。


  • 高エネルギー宇宙線の起源と、衝撃波での宇宙線統計加速

     地球には、宇宙から10の20乗電子ボルトにまで及ぶ宇宙線粒子がやってきてい ます。そのうち、10の15乗電子ボルト以下のエネルギーを持つ宇宙線は、 我々の銀河内にある若い超新星残骸 (Supernova Remnant, SNR) 起源であると 考えられています。 超新星残骸とは、太陽より重い星が引き起こす超新星爆発の後に残される 残骸で、秒速数千kmで膨張している、大きさ数10光年、温度数千万度の ガス球です。ガス球は強い衝撃波を伴って膨張しており、この衝撃波で 宇宙線が生成されると考えられています。 我々はこのような宇宙線粒子の加速機構について 理論的・観測的研究を行っています。

    また、このような非熱的な高エネルギー粒子の加速機構は、 高エネルギー天体現象において基本的かつ重要な物理過程のひとつであり、 超新星残骸に限らず、太陽、地球周囲の磁気圏から、パルサー星雲、ガンマ線バーストや 活動銀河核ジェット、はたまた銀河団の大規模な構造形成時などに普遍的に存在します。 そこでの宇宙線粒子加速過程は多彩な高エネルギー天体現象のもととなります。 さらに、地球に降り注ぐ高エネルギー宇宙線の中には、超新星残骸などの天体現象だけでは 説明できない陽電子や反陽子などの反物質も含まれています。 ひょっとすると、これらは、人類のまだ知らない未知のダークマター(暗黒物質)原始ブラックホールがもとになってできた高エネルギー粒子という可能性もあり、 素粒子物理学とも密接に関連する研究分野になっています。

  • 超新星残骸 SN1006 についての我々の研究成果が NASA/HEASARCPicture of the Weekで紹介されました。
  • 「超新星残骸での宇宙線加速 - 銀河宇宙線の起源に迫る - (天文月報2004年12月号掲載)」
  • 「超新星残骸における高エネルギー粒子加速」:上の短縮版(2005年2月)。
  • 超新星残骸 RCW 86 についての研究成果が以下で紹介されました(2006年9月): Chandra/Photo Album, ESO News
  • 「銀河宇宙線の起源に迫る - 理論・観測 研究の最近の進展 (物理学会誌2009年3月号掲載)」
  • 超新星残骸 RCW 86 についての研究成果が時事通信や以下等で紹介されました(2009年6月):
    朝日新聞「科学」欄 , ESO Press release, Chandra Images
  • 超新星残骸 Cygnus Loop についての研究成果が こちらで紹介されました(2011年9月)。
  • 超新星残骸 IC443 と W44 についての研究成果が こちらで紹介されました(2013年2月)。
  • 「超新星残骸の無衝突衝撃波での宇宙線加速の理論と観測」(プラズマ核融合学会誌2016年1月号掲載)
  • 超新星残骸と宇宙線反陽子・陽電子成分との関連についての論文 (Kohri et al. 2016) が 第25回物理学会論文賞を受賞しました(2020年3月18日)。 こちらもご覧ください。


  • 宇宙現象を地上に再現する実験室宇宙物理学

    当然ながら地球から遠くはなれた超新星残骸などの天体には行くことができません。そのため、それらの天体現象を 明らかにする手段は、天体の放つ電磁波(電波、可視光、X線、ガンマ線など)を観測することに限られます。 しかし、限られた情報からすべてを解明するのは難しい場合が多いのです(だからこそ楽しいのではあるが)。 ならば地球上に宇宙と同じものを作ってしまえば、 自分たちで条件もコントロールできるし、天文観測とは桁違いに豊富なデータが得られて良いではないか! というのが実験室宇宙物理学という新しい学問分野です。 例えば地上に大型レーザーを用いて希薄プラズマ中にできる衝撃波を作ることを目指した研究が行われており、 我々もこの実験に参加しています。得られた実験データをもとに、ガンマ線バーストや超新星残骸での宇宙線粒子加速の メカニズムを解明することを目指しています。

  • 「好奇心と想像力を糧に宇宙へ、大空へ。」アネスタ社「研究力が高い大学」(2019年7月掲載)
  • プレスリリース: 大阪大学らとの磁力線再結合過程の実験研究の成果(2022年7月)
  • プレスリリース: 大型レーザー装置で実験室に宇宙プラズマ衝撃波を生成(2022年8月)
  • プレスリリース: 九州大学らとの磁力線再結合過程の実験研究の成果(2022年11月)
  • 「実験室で宇宙プラズマ衝撃波の生成に成功」AGU (= Aoyama Gakuin University) RESEARCH:(2023年6月)



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