T 原子・分子の量子制御(コヒーレントコントロール)
以前は先見の明ある一部の研究者達を除きあまり真剣に考えられていなかった、量子系を制御するという概念は、今や当たり前のこととして理解されています。例えば小型化と集積化・高機能化が常に時代の要請であり続けるエレクトロニクスデバイスの技術開発では、それが進めば進むほどデバイスを構成する原子や分子・電子の量子力学的な性質・振る舞いを理解し制御し、且つまた積極的に利用することが必要不可欠と考えられています。
我々の研究室では原子や分子の関わる反応やその構造などを、レーザーを代表とする電磁波、電場や磁場の外場を用いて可能な限り自由自在に制御することを目標として、そのための原理研究を行っています。同時に、原子や分子それ自身を究極の超小型量子デバイスとして活用することも目指します。電子と異なり内部構造に富む原子を利用してエレクトロニクス技術に代わる次世代技術=アトムトロニクスの実現可能性を追求します。
TA 量子位相同期法
量子位相同期法は発散しない波束を利用して原子状態を制御する方法です[3]。これは青学・バージニア大学のグループ、及びライス大学・オーストリア工科大学・テネシー大学のグループ[4]の2つのグループが世界を率先して研究に携わっている研究テーマです。
理論的な解釈はロチェスター大学のEberlyら[5]、欧州のBuchleitnerら[6]、ジョージア工科大学のUzerら[7]、或いはイスラエルのMeerson, Friedlandらです[8]。Meersonらは量子系の内部周波数を外部クロックに同期させながら状態を変化させる物理操作の原理をDynamic Auto Resonance (DAR) と命名し、多くの非線形物理現象の制御に適用可能であることを示唆しています[9,10]。
量子位相同期法は従来の波束を用いた量子制御法、いわゆる波束法と全く異なる原理に基づいた新しい量子制御法であり、将来の展開が大いに期待されます。
TB 多光子断熱高速遷移
近年我々は周波数チャープ電磁波を用いることで Rydberg原子が10光子以上もマイクロ波を吸って他の状態へ大きく遷移することを見出しました[11,12]。しかも、遷移の効率がほぼ80%という高い効率で、です。この方法を一般的に使用できるならば原子・分子の量子状態を極々短時間に飛躍的に変位させることが可能となります。例えば、高い励起状態にある原子・分子を一瞬にして最も安定な状態、即ち基底状態へと遷移させることも可能となるかもしれません。最近の論文では10光子遷移現象には実は50個程度の光子が現象に介在することが示唆されており[13]、物理学的にも非常に非線形生に富み未解決の部分が山積する興味深い現象といえるでしょう。また古典論の観点からこの現象を理解することも試みられています。
発散しない波束の生成・観測装置の全体図
マイクロ波を100 fsパルスに位相同期させた時の信号