1999年度 第9回
下記の通りコロキウムを企画致しました。講演者の方には、学生や分野の違う方にもわかるレベルから始めて下さるようにお願いしてあります。是非ともご参加下さいますよう、ご案内申し上げます。
講演者:上原 政智 氏(RUtgers University、青山学院大学)
日時: 11月5日(金) 午後4時半から
場所: 青山学院大学 理工学部 一号館 5階 1538号室
講演題目: 巨大磁気抵抗効果を示すMnペロブスカイト酸化物の相分離
要旨:
巨大磁気抵抗(Colossal MagnetoResistance (CMR))効果を示すMn系ぺロブスカイト型酸化物(A1-xRExMnO3;
A=Lathanoid, Bi ; RE=Sr, Ca, Ba, Pb)が現在盛んに研究されている。 一連の研究から、Aサイト置換によって系に化学的圧力を加えると、キュリー温度(強磁性転移温度Tc)が下がり、磁気抵抗の大きさが指数関数的に増大していくことが明らかになっている。
CMR現象を示すMn系酸化物の物性は、化学的圧力による一電子バンド幅の減少、及び電子-格子相互作用の増大で基本的に説明できるが、様々な実験事実を説明するには、これだけでは不十分である。
典型的CMR物質La5/8-xPrxCa3/8MnO3における我々の系統的な研究から、電荷整列絶縁体相と強磁性金属相が electronic phase separation を起こすことが明らかになった1)。 この系では、Prドーピング量 y>0.275 の領域でTcが急激に減少し、CMR効果を示すようになる。 例えば、Prドーピング量 y=0.4 試料は4 kOeの磁場を印加すると5Kで4桁以上の抵抗減少を示す。 また、それと同時に電荷整列相の形成に伴う電気抵抗の上昇が200 K付近に観測される。 低Tc組成(x>0.275)では、電気抵抗の振る舞いは金属的にもかかわらず、残留抵抗の値がMottリミットをはるかに越えた異常に大きい値をとり、5Kにおける強磁性磁気モーメントの値は期待される値よりはるかに小さい。
これらの振る舞いは、電荷整列絶縁体相と強磁性金属相がphase separationを起こした2相共存状態を仮定すると自然に理解される。
また、低Tc領域における残留抵抗の振る舞いは、3次元のパーコレーション理論でよく説明され、熱起電力、熱伝導度の温度依存性も、絶縁体相と金属相の2相混合状態を仮定したGeneral
Effective Medium理論によって非常によく説明される。 すなわち、低Tc物質のCMR現象は、電荷整列絶縁体相によって隔てられた強磁性金属相を通してのパーコレーション的電気伝導が起源になっているものと考えられる。
この2相共存状態下において、磁化および電気抵抗に比較的長い時間(数時間オーダー)の緩和現象が観測され、phase
separationの起源が構造的なものに起因していることを示唆している。
1) M. Uehara, S. Mori, S. H. Chen and S.-W. Cheong, Nature 399 (1999) 560
共催・青山学院大学 理工学会 物理学分科会