青山学院大学 物理学科 コロキウム

1999年度 第5回

下記の通りコロキウムを企画致しました。講演者の方には、学生や分野の違う方にもわかるレベルから始めて下さるようにお願いしてあります。是非ともご参加下さいますよう、ご案内申し上げます。

(世話人・羽田野 直道・学外からは03-5384-2642・学内からは23107)



講演者:近藤 眞一郎 氏(東京大学大学院 新領域創成科学研究科)

日時: 10月15日(金) 午後4時半から
場所: 青山学院大学 理工学部 一号館 5階 1538号室

講演題目: 重い電子系遷移金属酸化物 LiV2O4 スピネル:現状報告
要旨:
 重い電子系は他の強相関系と同様多体効果に起因するその複雑な物理で、現在でも世界中の物性研究者を魅了し続けている。重い電子系と言えば希土類元素を含む金属間化合物がこの分野の常識であり、そこに登場してくる局在f電子と伝導電子という別々の個性を持つ電子間の混成、すなわち近藤結合によって自由電子の100倍から1000倍にもなる「重い電子」が形成されるというのが、これまでの既存の重い電子系のシナリオであった。
 重い電子系の世界でのこれまでの常識を覆した物質がスピネル型酸化物の LiV2O4 である。講演者らは最近、従来の希土類の重い電子系に匹敵する大きな電子比熱(γ=420mJ/mol K2)を低温で観測し、遷移金属酸化物として最初の重い電子系として報告した[1]。さらに水熱合成法によって単結晶を作製し、電気伝導の測定から極端に重い質量を有する準粒子がフェルミ液体を形成することを確認した。
 20-30Kに特徴的な温度を様々な物理量で示し、それらにおける振る舞いは従来の重い電子系に類似している。しかし物性に関与している電子はd電子のみであるため、この振る舞いの起源が希土類系における近藤効果と同じものであるかは自明ではない。理論的には近藤ルート、非近藤ルートの両方の立場に立った案が出されているが、実験的にどちらのシナリオが実現されているのかを現時点で明確に証明するだけのものは残念ながらまだ蓄積されていない。講演では、この LiV2O4 の重い電子系挙動の起源に密接に関係すると思われる我々の最近の実験結果(高温における異常電気抵抗、圧力誘起金属-絶縁体転移、Znドーピングによるスピングラス転移)も含めレビュー的な報告をしたいと思う。

[1] S. Kondo et al. Phys. Rev. Lett. 78, 3729 (1997).


共催・青山学院大学 理工学会 物理学分科会