1999年度 第一回
下記の通りコロキウムを企画致しました。講演者の方には、学生や分野の違う方にもわかるレベルから始めて下さるようにお願いしてあります。是非ともご参加下さいますよう、ご案内申し上げます。
(1) 通常のパイエルス転移は、一次元電子系とフォノンの結合にもとづく不安定性である。これは、格子の自由度が歪むことで、電荷のフェルミ面にエネルギーギャップを開け、全体のエネルギーを下げるという機構である。1次元では任意の充填率でこの不安定性が存在し、古来から詳しく調べられて来た。
(2) 一方、一次元電子系は、有効理論としてはスピンと電荷の自由度を独立に取り扱うことができるという特殊性がある。(いわゆるスピン電荷分離の一種)
本研究では、(1, 2) をふまえ、フォノンの自由度なしのパイエルス不安定性の機構を提案する。これは、分離したスピンの自由度が歪むことにより、電荷のフェルミ面にエネルギーギャップを開けるというしくみである。言い替えると、電荷の自由度のギャップがスピンギャップにより誘起されるというものである。これに伴い、スピン相関関数には、充填率に依存した非整合構造が現われる。さらに、この不安定性は、一次元の多成分量子系(スピン梯子系、電子梯子系など)へも一般的化できる。これまでの考え方は「スピンと電荷の自由度が一旦分離してしまえば、後の取り扱いは別々に行えばよい」というものである。しかし「分離した後も、両者が協力して全体としてエネルギーを下げ安定化する」という機構が存在してもよく、このような考え方も、むしろ自然なのかもしれない。今回提案する機構は、そのような例の一つになっている。
最近 Haldane 系にホールをドープする実験が行われている(Y$_{2-x}$Ca$_x$BaNiO$_5$など)。中でも、Haldane gap の中に非整合構造が現われることが、中性子散乱の実験から報告されているが、この現象との関連性も議論する。
当日は、通常のパイエルス転移、Haldane系、一次元電子系のボゾン化法等の基本的な導入から解説する予定。
共催・青山学院大学 理工学会 物理学分科会