講演者:宇田川 将文 氏(東京大学工学系研究科物理工学専攻) 日時:6月 15日(金) 午後4時30分から 場所: 青山学院大学 理工学部(相模原キャンパス)L棟6階 L603室 題目: 「スピンアイス伝導系における輸送現象: 抵抗極小現象と非従来型異常ホール効果」 要旨:  「氷」は日常生活で馴染みの深い物質であるが、実は現代物理において最先端の話題を 提供し続ける奥深い性質を備えた存在でもある。氷の際立った性質の多くは 結晶中で水素原子の局所配置が満たすアイスルールと呼ばれる単純な規則に由来する。 このアイスルールのために、氷結晶中の水素原子は極低温でも乱雑な状態に留まり、 マクロな縮退を示す一方、距離に対してベキ的に減衰する準長距離的な位置相関を示す。 言わば、秩序と乱雑の中間とも言うべき異常な空間相関を示すのである。 興味深い事に、このアイスルールは一般のイジング的な自由度に拡張可能な概念であり、 電荷やスピンの言葉に翻訳されて、固体物理全般にわたる様々な系で広く重要な 役割を果たしてきた。その中で、近年にわかに注目を集めているのがアイスルールに 従う局在自由度(アイスルール系)と伝導電子が結合した系である。 アイスルール系特有の秩序と乱雑さを兼ね備えた空間構造との相互作用を通じ、 伝導電子はしばしば異常な性質を獲得するのである[1]。 本講演ではまず、氷の磁性体版とも言うべき物質群であるスピンアイス[2]の性質について 詳細な解説を行う。その後に、スピンアイスと伝導電子が結合した系で現れる特異な 輸送現象についての我々の解析結果についてお話しする。特にこのスピンアイス伝導系において 我々が見出した二つの現象--抵抗極小現象[3]と非従来型異常ホール効果[4]--はPr2Ir2O7という 実際の物質で観測され[5,6]、この系の他の熱力学的性質の振る舞いとも整合の良い記述を与える。 [1] 宇田川 将文、石塚 大晃、求 幸年、固体物理 46(2), 87-99 (2011). [2] M. J. Harris et al., Phys. Rev. Lett. 79, 2554 (1997), A. P. Ramirez et al., Nature 399, 333 (1999). [3] M. Udagawa, H. Ishizuka and Y. Motome, Phys. Rev. Lett. 108, 066406 (2012). [4] M. Udagawa and R. Moessner, in preparation. [5] S. Nakatsuji et al., Phys. Rev. Lett. 96, 087204 (2006). [6] Y. Machida et al., Phys. Rev. Lett. 98, 057203 (2007). ---------------------------------