講演者:北川 拓也 氏(ハーバード大学物理学科) 日時:5月 11日(金) 午後4時30分から 場所: 青山学院大学 理工学部(相模原キャンパス)L棟6階 L603室 題目: 「非平衡状態における新しいトポロジー相の出現」 要旨:  20世紀の固体物理は「相」と呼ばれる様々な物質の状態を理解する事で 進んできました。パソコンのメモリーを作るのに欠かせない強磁性や反強磁性 といった性質や、応用が期待されている超伝導といった性質はどれも自発的 対称性の破れという考え方で説明されます。近年、量子ホール効果の発見とその 理解が進むにつれ、物質の位相には対称性の破れでは説明がつかない、 トポロジー相という相が存在することが分かってきました。そのコンセプトを 拡張し、今ではスピントロニックスから量子コンピューターへの応用が 考えられるような様々なトポロジー相が提案され、実験で実現されようとしています。 この講演では、今まで平衡状態で考えられてきたトポロジー相は周期的に ドライブされた非平衡状態でも実現できる事をお話しします。一般的な考え方 を説明した後、具体的に量子ウォークと呼ばれる、粒子を動かすプロトコルにおいて トポロジー相が実現される事を提案し、その特徴を確認した実験の結果をお見せします。 更にもう一つの具体例としてグラフェンに円偏光を当てる事で、 磁場の無い場所で量子ホール効果を引き起こす事ができることを説明します。 これは光によって、Haldane modelを非平衡状態として実現するのに当たります。 時間が許せば、冷却原子を使って、動的にMajorana Fermionを作り出す可能性に ついてお話しします。 更に非平衡状態においては、平衡状態にはないような新しいトポロジー現象を 引き起こすことができます。これも量子ウォークや冷却原子を使って具体例を 挙げて説明します。 動的にトポロジー相を引き起こす事は、テクノロジーの観点においてもとても 有用だと考えられます。この研究の結果は、もともとトポロジーの性質がない物質に、 欲しい時に自由にトポロジー相を引き起こせるような可能性があること を示唆しています。 ---------------------------------