講演者:佐藤 正寛 氏(青山学院大学理工学部) 日時:10月 22日(金) 午後4時30分から 場所: 青山学院大学 理工学部(相模原キャンパス)L棟6階 L603室 題目: 「フラストレートJ1-J2スピン鎖における多様な秩序状態とその物性: 磁気多極子、ベクトルカイラル、シングレット・ダイマー、トリプレット・ダイマー、 ネール、ハルデン、朝永ラッティンジャー液体相」 要旨:  最近接相互作用J1と次近接相互作用J2をもつスピン1/2鎖は、最も単純で基本的な フラストレート磁性体模型として90年代ころから精力的に研究されている。 幸運なことに、対応する磁性体も多数存在し、実際理論実験両サイドからの研究成果が さらなる研究を進展させている。特に最近は、J1-J2鎖を基本構造とする擬1次元銅酸化物 磁性体(LiCu2O2、LiCuVO4、PbCuSO4(OH)2、Rb2Cu2Mo3O12など)で マルチフェロイクス的振舞いが観測され実験研究の進展が著しい。 このような状況の中で、我々は最近J1-J2スピン鎖の静的動的物性について 以下のような理論解析結果及び予言(1)(2)を得たので、それについて紹介したい。 (1) 磁場中のJ1-J2スピン鎖の広いパラメータ領域において、 磁気多極子液体相(4,8,16極子)が存在することが最近の数値計算研究で明らかにされた[1,2]。 この新しい液体相の秩序パラメータは近接サイト上のスピン演算子の積で定義される為 それを通常の磁性実験方法で直接観測することは非常に難しい。逆に、 多極子秩序の有効な観測方法を確立することは磁性研究において重要な課題といえる。 そこで、我々はJ1-J2鎖の多極子液体相の特性がNMR緩和率に現れることを示し、 緩和率の温度磁場依存性を見ることで多極子液体相を間接的に検出する方法を提案した[3,4]。 この方法は実際の擬1次元磁性体LiCuVO4、PbCuSO4(OH)2、Rb2Cu2Mo3O12で有効であると期待される。 (2) J1,J2ともに反強磁性のスピン鎖に容易面異方性を加えた系の基底状態相図は 前世紀からの精力的な理論研究によりかなり詳細に理解されている。 一方、上記マルチフェロイクス系はすべてJ1が強磁性であると考えられている。 そこで我々は強磁性J1と容易面異方性を持つスピン鎖の基底状態相図を、 数値解析法と低エネルギー有効理論を応用することで精密に完成させた。 その結果、ベクトルカイラル秩序相が非常に広範囲に存在すること[5]、 このカイラル秩序相と通常の朝永ラッティンジャー液体相の間で ダイマー=ネール相間の多重(無限回かも?)量子相転移が存在すること[6]を 明らかにした。 [1]T.Hikihara,L.Kecke,T.Momoi,A.Furusaki, PRB78,144404 (2008). [2]J.Sudan,A.Luscher,A.M.Lauchli, PRB80, 140402(R) (2009). [3]MS,T.Momoi,A.Furusaki, PRB79, 060406(R) (2009). [4]MS,T.Hikihara,T.Momoi, arXiv:1009.3206. [5]S.Furukawa,MS,S.Onoda, arXiv:1003.3940. [6]S.Furukawa,MS,A.Furusaki, PRB81, 094430 (2010) これらの成果は、古川氏(トロント大)、小野田氏(理研)、引原氏(北大)、 桃井氏(理研)、古崎氏(理研)との共同研究に基づくものです。 ---------------------------------