講演者:中村 正明 氏(東京工業大学理工学研究科) 日時:10月 8日(金) 午後4時30分から 場所: 青山学院大学 理工学部(相模原キャンパス)L棟6階 L603室 題目: 「分数量子ホール効果と量子スピン系におけるハルデン予想との関係」 要旨:  2次元電子系の分数量子ホール効果はランダウ準位の電子密度が、分母が奇数の 既約分数で与えられる時にのみ起きる。一方、1次元量子スピン系では、いわゆ るハルデン予想により、スピンの大きさが整数ではエネルギーギャップが開き、 半奇整数の場合はギャップが閉じることが知られている。両者は全く異なる物 理系であるが、このような偶奇性による性質の違いが生じるこという点で似通っ た性質をもっている。さらに、分数量子ホール状態では非対角長距離秩序が存 在するのに対し、量子スピン系のS=1ハルデン状態ではストリング秩序変数が有 限値を持ち、両者にはトポロジカルな秩序が存在している。以上のような共通 した性質から、両者の間に、何らかの類似性があると指摘されていた。 近年、分数量子ホール状態を1次元的に取り扱う試みがなされ、大きな成功を収 めている。これは、量子ホール状態を記述するポテンシャルをランダウゲージ による波動関数で第2量子化することでトーラス上の模型に写像し、トーラスの 半径を縮めることで1次元の問題として解析するというものである。1次元極限 では系は電荷密度波状態(CDW)となるが、そこから長距離相互作用を段階的に取 り込むことで一定の太さのトーラスの系を比較的容易に扱うことができる。こ の1次元化の手法を用いて分数量子ホール状態をスピン鎖の有効模型に焼き直す ことで、偶数分母の電子密度の場合は半奇整数の臨界的量子スピン鎖、奇数分 母の場合はギャップをもつ整数スピン鎖に対応し、ハルデン予想と量子ホール 状態が密接に関係していることを指摘した。特に電子密度が1/3の場合、S=1の 代数を用いた有効模型 が得られるが、この模型をパラメータを拡張し、既に存 在が知られているハルデン相とlarge-D相との関係を調べたところ、分数量子ホー ル状態は二つの異なるギャップ相の双方とギャップが閉じることなく連続的に つながっていることが分かった。これはこの有効模型が空間反転対称性を持た ないことに起因している。 参考文献: M. Nakamura, E. J. Bergholtz, and J. Suorsa, Phys. Rev. B 81 (2010) 165102. ---------------------------------