講演者: 吉野 元 氏(大阪大学大学院理学研究科宇宙地球科学専攻助教) 日時: 7月 20日(金) 午後4時30分から 場所: 青山学院大学 理工学部(相模原キャンパス)L棟6階 L603室 題目: 「メソスケールのガラス系における階段的応答」 要旨: スピングラス、高分子ガラスなどの系は、ガラス転移温度以下で完全に凍結しているわけではなく、 エイジング効果、若返りメモリー効果、非線型レオロジーなどの興味深い現象を示す。これらは、 工学的に重要であるばかりでなく、ガラス系の物理の重要な課題である。 これらの現象は巨視的な観測に現れているが、そのメカニズムを理解するためには、系の中の、 準巨視的な時間、空間スケールで何が起こっているかを理解することが重要であると考えられている。 これまでに現象論的な立場から、メソスケールでのdroplet励起などが提案されているが、その 妥当性は必ずしも明らかでなく、微視的な理論に基づく裏付けが課題となっている。 メソスケールのスピングラス系における磁場に対する応答には、奇妙な階段的な応答が現れ、その パターンは個々のサンプルで異なることが実験的に知られている[1]。我々は、この現象を平均場理論 に基づいて統計力学的に解析した[2,3]。 有限の外場のもとで、熱力学極限をとり、その後、外場を無限小にすると、通常の熱力学的な応答を 見ることになり、これはサンプルには依存しない。我々は極限操作の順番を逆にすることによって、 メソスケールでの階段的応答を解析した。レプリカ法および低温展開の方法により、階段の典型的な 間隔、高さ、有限温度でのなまりの幅などの特徴的スケールが得られた。個々の階段は、準巨視的 スケールでの、1次相転移的な平衡状態の変化にともなって起こっている。熱力学極限では、階段の 間隔が0になり、磁化曲線はサンプルに依存しない曲線に収束する。我々の結果は、その背後に無限回 の「1次相転移」が隠れていることを示している。さらに、統計力学の問題としては, このメソスケール のガラス系における応答の階段は、乱流における衝撃波の問題と密接に関係していることがわかった。 [1] M. B. Weissman, Rev. Mod. Phys. 65, 829 (1993) [2] H. Yoshino and T. Rizzo, J. Phys. C 19 145223 (2007), cond-mat/0608293. [3] 吉野 元、物性研究 88 no 3, 393 (2007). --------------------------------- 共催: 青山学院大学 理工学会