講演者: 妹尾 仁嗣 氏(日本原子力研究開発機構主任研究員) 日時: 6月 15日(金) 午後4時30分から 場所: 青山学院大学 理工学部(相模原キャンパス)L棟6階 L603室 題目: 「新規単一成分分子性導体の理論的研究」 要旨: 本コロキウムでは、分子性結晶(分子で構成された結晶)の分野における新物質 系「単一成分分子性導体」の研究を紹介し、これらに関する最近の我々の理論 的研究について話す。 電気を流す分子性結晶=分子性導体の分野では、1970年頃に発見されたTTF-TC NQ以来、2成分以上(例えばTTFとTCNQ)の分子ユニットの間での電荷の移動によ るキャリア生成、というstrategyが例外なく適用されてきた。しかし、銅のよ うに一種類の原子で金属が実現しえるのと同様に、単一種分子で金属が実現す る物質を合成することは化学者の長年の夢であった。2001年に東大の小林昭子 Grによって[Ni(tmdt)2]が合成され初めてそれが現実となり[1]、その後の実 験によってこの物質は低温まで金属的挙動を示すことがわかりフェルミ面も観 測された[2]。またこれと同型の[Au(tmdt)2]では反強磁性転移が110Kという分 子性導体では特異的に高い温度で起きるが、その詳細やメカニズムは判明して いない。 分子性導体を理解する上で、上記のような「従来型」の電荷移動錯体系では分 子をユニットとした強束縛モデルおよび電子相関を加味した拡張ハバード型の 有効モデルによる理論的研究が成功を収めてきた[3]。我々は、まずこのような 手法がこれら「単一成分分子性導体」に適用できるのかを、第一原理計算、量 子化学計算、およびフェルミ面付近のバンド構造の強束縛フィッテイングによ って調べ、金属原子を中心とするd-paiおよびd-sigma混成軌道と、tmdt配位子 の(仮想)分子軌道に「分割」した強束縛モデルが構築できることを示す。また、 これに電子相関を加味し平均場近似を導入して可能なスピン/電荷秩序状態を議 論し、[Au(tmdt)2]での反強磁性状態との関連を述べたい。 本研究は岡野芳則(分子研)、石橋章司(産総研計算科学)、福山秀敏(東理大理)、 小林速男(日大文理)、小林昭子(日大文理)、寺倉清之(北陸先端大)各氏との 共同研究です。 [1] H. Tanaka, Y. Okano, H. Kobayashi, W. Suzuki, A. Kobayashi, Science 291 (2001) 285. [2] for reviews, A. Kobayashi, E. Fujiwara, H. Kobayashi, Chem. Rev. 104 (2004) 5243; A. Kobayashi, Y. Okano, H. Kobayashi, J. Phys. Soc. Jpn. 75 (2006) 051002. [3] H. Seo, C. Hotta, and H. Fukuyama, Chem. Rev. 104 (2004) 5005: H. Seo, J. Merino, H. Yoshioka, and M. Ogata, J. Phys. Soc. Jpn. 75 (2006) 051009. --------------------------------- 共催: 青山学院大学 理工学会