講演者: 初貝 安弘 氏(筑波大学数理物質科学研究科) 日時: 12月 21日(金) 午後4時30分から 場所: 青山学院大学 理工学部(相模原キャンパス)L棟6階 L603室 題目: 「量子液体相、スピン液体相における量子的な秩序とベリー位相」 要旨: 物質のいろいろな形態とその変化は相(phase)と相転移として 物理的に議論されますが、なにか具体的な作業を行うときには相を特徴 づける「秩序変数」が使われます。この秩序変数とはその名の通り相の 秩序をあらわすものですから、相の議論とは秩序の議論と言うこともで きます。秩序ある相と無秩序な相をこの秩序変数で区別するわけです。 規則正しく整列した結晶構造、微小磁石としてのスピンが整列する強磁 性秩序などが秩序のよく知られた例です。  物質の温度が十分高ければ熱揺らぎでどんな秩序であれ無秩序となっ てしまいますが、低温にすればエネルギーを最適化する何らかの秩序が 形成されると考えられます。ところが量子効果が強い低次元系において は絶対零度になっても古典的な秩序形成が全く起こらないことがあるこ とが近年広く認識されるようになりました。このように量子効果で無秩 序となった物質相を量子液体相、スピン系でしたらスピン液体相と呼び ましょう。2次元磁場中の整数(分数)量子ホール系、交換相互 作用する整数スピン鎖がその代表例と考えられます。  古典的な秩序変数が意味をもたないことを量子液体相の定義とすれ ば、これらの無秩序な物質相を特徴づけるためにはどうしたらよいので しょうか?   ここで、量子的な記述によれば古典的な対応物のないものも観測可能 となることを思い出しましょう。波動関数の干渉効果がその典型的な例 です。ベリー位相と呼ばれるものもこの量子干渉効果の一つと考えるこ とができます。近年量子多体系の干渉効果をベリー位相として抽出する ことで、量子液体相に対して「量子的な」秩序並びに秩序変数が構成で き、これを用いると量子液体、スピン液体における幾つかの相をわかり やすく特徴づけることができることがわかってきました[1-3]。  講演では量子液体、ベリー位相の説明からなるべく自己完結的にお話 しする予定です。 [1] Y. Hatsugai: J. Phys. Soc. Jpn. 74 123601 (2006) [2] Y. Hatsugai, J. Phys.: Condens. Matter 19 145209 (2007) [3] T. Hirano, H. Katsura, Y. Hatsugai, arXiv:0710.4198 --------------------------------- 共催: 青山学院大学 理工学会