講演者: 柳瀬 陽一 氏 (東京大学 理学部) 日時:  12月 3日(金) 午後4時30分から 場所: 青山学院大学 理工学部(相模原キャンパス)L棟6階 L603室 題目:「弱結合からのアプローチからみた異方的超伝導のメカニズム」 要旨: 相関の強い電子系における異方的超伝導のメカニズムは、この20年の間に 多くの理論的アプローチによって調べられてきた。 今回のコロキウムでは、弱結合からのアプローチに基づいて得られた理解 について、基本的な事柄を含めてなるべく総合的なお話をしたい。 まず、BCS理論の微視的理論への拡張であるエリアシュベルグ方程式を定式化し、 そこでは既約4点バーテックスが広い意味での引力相互作用を記述することを 説明する。超伝導のメカニズムはこの既約4点バーテックスの性質に集約される。 このバーテックスを計算する手法として、摂動論とスピン揺らぎの理論 について解説し、それぞれが持つ理論的背景についても私見を述べたい。 高温超伝導、有機超伝導、Sr_2RuO_4を具体例としたケーススタディの 結果に基づいてこの2つの手法の得手不得手を議論し、両者を相補的な アプローチとみなすことで得られる理解を説明する予定である。 最後に、最近の進展である多軌道系の超伝導への拡張について議論したい。 高田らによって昨年発見されたコバルト系酸化物に対して、異方的超伝導の 可能性が様々な実験結果から示唆されている。 実験結果による対称性の決定は未だ議論が行なわれている段階であるが、 この系に対して我々が摂動論およびスピン揺らぎの理論を適用した結果は スピン三重項超伝導の可能性を強く示唆する。 これまでに多軌道系の超伝導が微視的な計算によって議論された例は少ない が、その一例であるSr_2RuO_4では軌道自由度は超伝導のメカニズムとはあまり 関係ないという結果であった。一方でこの系においては軌道自由度が超伝導に 対して本質的な役割りを果たしていることが結論される。両者の比較から 軌道自由度と超伝導の関わりについて一般的に期待される事柄を議論したい。 また、スピン三重項超伝導に対するスピン-軌道相互作用の効果を計算した結果から、 磁場中の多重相図の可能性を指摘し、コバルト系酸化物において一見矛盾する ように見える実験結果が矛盾なく説明される可能性についても言及したい。 --------------------------------- 共催: 青山学院大学 21世紀COEプログラム