講演者: 田嶋 尚也氏(理化学研究所) 日時:  5月14日(金) 午後4時30分から 場所: 青山学院大学 理工学部(相模原キャンパス)L棟6階 L603室 題目:「有機ナローギャップ半導体の電気伝導特性」 要旨: 最近活発に研究されている有機伝導体に対する興味の1つは、 結晶が分子から構成されていることが伝導電子に従来の金属 とは異なるエキゾチックな特徴をもたらす可能性にある。本 講演で取り上げる現象もその一つである。 有機伝導体の中には結晶が良質である物質も多く、低温でキ ャリアの易動度が高いためにシュブニコフ・ド・ハース振動 や角度磁気抵抗振動(AMRO)が観測される。こうした物質の電 気抵抗は、温度低下に伴って減少するいわゆる金属型温度変 化をする。 しかし一方、有機伝導体の中には電気抵抗の温度変化が非常 に小さい物質が数多く存在する。我々は、一見試料の純度が 低いことを示すようにみえる温度に依存しない電気伝導性を 持つ物質に興味を持ってここ数年研究を続けてきた。 温度に依存しない電気伝導性をもつ有機伝導体の一つに α-(BEDT-TTF)_2I_3を挙げることができる。α-(BEDT-TTF)_2I_3は、 約135Kで電荷の不均化により金属-絶縁体転移を起こすが, 加圧により移転点は低温側へ移動し、15kbar以上の高圧下で この絶縁体転移はほぼ押さえられる。 高圧下にあるこの物質の電気伝導性は極めて特異である。電 気伝導度の温度変化がほとんどゼロであるにもかかわらず、 キャリア密度が300Kと1Kの間で6桁も減少する。一方、易動度 は同じ温度域で6桁の上昇をみせる。低温のキャリア系は極低 密度(10^15 cm^-3)、極高易動度(10^6 cm^2/V.sec)の状態に ある。このような振る舞いはいわゆるナローギャップ半導体 で見られる現象ではあるが、今まで知られていたその種の無 機物質の場合、変化はせいぜい2桁程度である。6桁にも及ぶ 変化が相殺してフラットな伝導度を示すような物質は、無機 物、有機物を問わず今までに無い全く新しい物質である。バ ンド間のギャップは1meVと信じられないほど狭く、キャリア は0.02 m_0度の非常に軽い有効質量をもつ。エネルギーギャ ップが極端に狭いことによって、キャリアが軽い有効質量を もつことはナローギャップ半導体の特徴の一つである。この 物質は金属の観点から見れば劣等生であるが、もっと広く伝 導体としてみれば非常に興味深いニューフェースなのである。 同じ現象がバンド構造の異なる類縁物質でも見られる。従っ て、この現象が偶然におこっているとは考えにくい。この手 の有機伝導体は超ナローギャップ半導体になるべき何らかの 機構があるように見受けられる。 最近、この手の物質には磁気的な性質が何かあると思われる 実験結果を得ている。本講演では以上のことと、高磁場での 異常な磁気抵抗・ホール効果について未解明の問題を中心に 紹介する。時間があれば、最近発見した光誘起現象について もふれたい。 --------------------------------- 共催: 青山学院大学 21世紀COEプログラム