講演者: 小林 一昭氏(計算材料科学研究センター) 日時:  5月28日(金) 午後4時30分から 場所: 青山学院大学 理工学部(相模原キャンパス)L棟6階 L603室 題目:「第一原理電子状態計算で物質を異方的に押してみる」 要旨: 筆者等は六方晶構造を持つ物質を主な計算対象として、物質に異方的な圧縮 を加えた場合の、それらの格子構造と電子状態の挙動の変化に関して研究を行 なっている。もともとのきっかけは、2001年初頭に発見されたMgB2であり [1]、これを等方的、異方的に圧縮した場合の格子構造、電子状態、フォノン 振動数(Γ点のみ)の変化について計算を行なったことである[2][3]。MgB2の 場合、圧縮において特に異常な振舞いは見られなかったが、その後関連する物 質としてLiBC(転移温度の高い物質かもしれないという理論予想があった[4]) で同様の計算を行なった場合、圧縮による格子変化の挙動に異常があることを 見い出した[5]。 格子変化の異常は、六方晶構造(LiBCの結晶対称性は、hcpと同じP6_3/mmc) において、a,b軸方向のみを圧縮し、c軸方向は自由(ゼロ圧力)とした場合、 c軸の格子定数が縮むことである。通常、a,b軸方向の圧縮でc軸は伸びるはず で、これはポアソン比(定義上はc軸圧縮であるが)が負であることを意味し ている。筆者等は関連する物質を中心に、更に理論的な探索を進め、LiBCと同 様な格子異常を、HBC(構造はLiBCと同じ、仮想物質)で発見[6]、更に仮想物 質MgB(h-BN構造、これも結晶対称性はhcp)ではc軸圧縮において、a,b軸が縮 む格子異常(これが本当の意味で負のポアソン比としての挙動)を発見した [7]。 本コロキウムでは、この格子異常の原因について判明している範囲で説明を 行なう。尚、計算手法は第一原理分子動力学手法(広い意味でのカー・パリネ ロ法)である。 [1] J. Nagamatsu, N. Nakagawa, T. Muranaka, Y. Zenitani and J. Akimitsu: Nature 410 (2001) 63. [2] K. Kobayashi and K. Yamamoto: J. Phys. Soc. Jpn., Vol. 70, No. 7, 1861(2001). [3] K. Kobayashi and K. Yamamoto: J. Phys. Soc. Jpn., Vol. 71, No. 2, 397(2002). [4] H. Rosner, A. Kitaigorodsky and W. E. Pickett: Phys. Rev. Lett., Vol. 88, No. 12 (2002) 127001. [5] K. Kobayashi and M. Arai: J. Phys. Soc. Jpn., Vol. 72, No. 2 (2003) 217. [6] K. Kobayashi, M. Arai and T. Sasaki: in Proceedings of IUMRS-ICAM2003, accepted. [7] K. Kobayashi and M. Arai: Mater. Trans., Vol. 45, No. 5, 印刷中. --------------------------------- 共催: 青山学院大学 21世紀COEプログラム