講演者: 金丸 隆志氏(東京農工大学 工学部) 日時:  10月29日(金) 午後4時30分から 場所: 青山学院大学 理工学部(相模原キャンパス)L棟6階 L603室 題目:「脳とカオス 〜パルスニューロン集団による大自由度カオスの生成〜」 要旨: カオスとは「決定的な方程式に従う系にて見られる予測不可能な振舞い」である。 このカオスの乱雑性が脳の情報処理において有効に働き得るのではないか、という 提案がモデル研究において1990年代になされ、現在でも議論を呼んでいる。 これは、生体に比べ簡略化されたモデルニューロンのネットワークで報告された 大自由度カオスに基づく議論である。 カオスが現実の脳で有効に働いていることを示すためには実験による裏付けが 不可欠であろうが、現在のところ ・神経細胞 (ニューロン) 一素子にてカオスが存在し得ること ・脳波などのデータからカオスの存在が間接的に示唆されること が示されるに留まっており、今後の実験研究が待たれている。 一方、モデル研究の立場では、生体の神経細胞と同様にパルスで入出力が定義 された「パルスニューロン」の大規模結合系においてカオスが生じるのか、 生じるとすればどのような形態をとるのかは明らかではない。なぜなら、 一素子でカオスが生じたとしても、結合を導入することでそのカオスが消えて しまうことは容易に起こり得るからである。 そこで、本研究ではパルスニューラルネットワークにおいて大自由度カオスが どのように生じ、またどのようなダイナミクスを持つかを興奮性集団と 抑制性集団の結合系にて考察する。このモデルでは広いパラメータ範囲で 低次元カオスが見られ、また、これを大自由度カオスへと拡張することも容易 であることが明らかになった。 このような系におけるカオスを調べることは、「カオスによる情報処理」が、 実際の生体内ではどのように実現され得るかを理解するための一つのステップ になるだろうと期待している。 なお、本講演では脳科学やカオス理論についての物理の立場からの簡単な紹介も行う。 --------------------------------- 共催: 青山学院大学 理工学会