講演者: 井澤 公一 氏 (東京大学 物性研究所) 日時:  11月12日(金) 午後4時30分から 場所: 青山学院大学 理工学部(相模原キャンパス)L棟6階 L603室 題目:「熱伝導測定による異方的超伝導体のギャップ構造の決定」 要旨: ここ20年来、重い電子系化合物に始まり、有機物、銅酸化物、ルテニウム酸化 物において、従来のBCS超伝導体とは異なる対称性をもつ超伝導体が数多く発 見され精力的に研究がなされている。これら異方的超伝導体は、その多くの物 質で超伝導ギャップがゼロになる部分、つまり「ノード」が存在するという特 徴をもつ。これは従来の超伝導体において超伝導ギャップが等方的に開いてい ることとは対照的である。そして重要なことはこのような異方的なギャップ構 造が超伝導の引力の起源と密接に関係していることであり、その解明は超伝導 の発現機構を知る上で非常に重要な情報を与える。それゆえこれまで比熱、 NMR、超音波吸収、磁場侵入長などの温度依存性が精力的に調べられ、ギャッ プ構造が議論されてきた。しかしながらこれらの温度依存性は試料中の不純物 の影響を大きく受け、また温度領域によって異なる振る舞いを示すことがあり、 温度依存性の実験だけでギャップ構造を議論するのは難しい。仮に温度依存性 からノードの有無に関する情報を得ることができたとしてもノードの方向依存 性まで明らかにすることはできない。このような事情からこれまで高温超伝導 体を除くほとんどの異方的超伝導体の対称性は明らかにはなっていなかった。 我々はこれまで熱伝導率に注目し異方的超伝導体のギャップ構造を調べてきた。 超伝導状態において熱は準粒子により運ばれ、熱伝導率は熱流や磁場方向を変 えることによりギャップ構造を反映した異方性を示す。したがって熱伝導率は 異方的超伝導体のギャップ構造、特にその異方性を調べる上で非常に強力な実 験手段である。講演では、これまで調べてきた異方的超伝導体の中から主に重 い電子系超伝導体 PrOs$_{4}$Sb$_{12}$ および CePt$_{3}$Si に おける熱伝導率の温度依存性、磁場依存性、および角度依存性の結果を紹介し、 それらをもとに超伝導ギャップ構造・対称性を議論する。 --------------------------------- 共催: 青山学院大学 21世紀COEプログラム