講演者: 長谷川 美貴氏(青山学院大・理工) 日時:  6月11日(金) 午後4時30分から 場所: 青山学院大学 理工学部(相模原キャンパス)L棟6階 L603室 題目:「発光スペクトルを利用した分子内エネルギー移動の見積もり」 要旨:  分子の励起状態からの緩和は、非常に多くの情報を含んでいる。 例えば、蛍光・リン光は主に励起一重項あるいは励起三重項状態 からの緩和過程における電磁波の放射で、温度あるいは分子を取り 囲む媒体によって顕著に変化する。この変化の具合は、分子自身の 個性に大きく依存する。  蛍光を示すと思われる化合物の予想は、いまだに規則性がない ため困難である。また、ほとんどの発光性物質は、一分子から観 測される発光が一種類で、二種類以上のエネルギー状態からの発 光は稀である。これらの理由は、励起状態からの失活経路には、 発光のほかに分子内での内部エネルギー転換、分子を取り囲む環 境への熱的なエネルギー放出などの無輻射失活の割合が重要となる。  d族遷移金属が発光性の有機化合物と錯体を形成すると、その多 くが配位子自身の蛍光を消失してしまう。これは、d軌道が配位子 に共有結合的に配位しすることが主な原因である。しかし、f族遷 移金属であるランタノイド類は、d軌道よりも内殻に不飽和なf軌道 を持つため、原子の性質を保ったまま配位化合物あるいは無機化合 物を形成できる。そのため、電子デバイスやDNAのプローブ分子と しても応用されつつある。  私どもの研究室では、発光性配位子を持つプラセオジム錯体を 取り扱っており、時間分解蛍光スペクトル測定からその励起エネ ルギー移動過程について研究している。この方法は、有機分子や ポルフィリン系金属錯体には用いられてきたが、一分子内の配位子 −金属間励起エネルギー移動を捕らえるための実験としてはそれ 自体新たな手法である。すなわち、配位子自身とプラセオジムイ オンからの多重発光をピコ秒領域の時間分解スペクトルで捕らえ、 更にその寿命と立ち上がりからエネルギー移動過程を考察した初め ての例である。配位子の設計により、誘導体による発光の偏移の 様子も確認できた。配位子誘導体およびネオジム、ユーロピウム などの他のf族元素の場合との比較により、この課題はランタノイ ド錯体のサイエンスを一歩前進させることができるものと期待し ている。 ここでは、その様子に至るまでの発想の過程も含めてお話したい。 なお、今回の内容は北海道大学大学院工学研究科 山崎 巌先生、 山崎トモ子先生との共同研究である。 --------------------------------- 共催: 青山学院大学 21世紀COEプログラム