講演者:橘 基氏(理化学研究所) 日時: 12月 12日(金)  午後4時30分から 場所: 青山学院大学 理工学部(相模原キャンパス)L棟6階 L603室 題目: 「星の中の超伝導 --カラー超伝導--」 要旨: 物質を限りなく凝縮させていくと原子核同志の重なりが非常に大きくなり、 最終的にその物質は核子よりも寧ろその構成要素であるクォークの自由度 で記述されると考えることができる。クォークの力学を司る量子色力学(QCD) の基本原理である漸近自由性(短距離になるほど相互作用の強さが小さくなる) に基づけば、高密度下ではクォークはほぼ自由粒子として振舞うと予想できる。 ところが実際には自由粒子が形成するFermi面近傍のクォーク間には、カラー 反対称チャンネルから来る引力が働くためFermi面は不安定になり、基底状態 はクォーク対が凝縮した状態が実現される事が、モデルを用いた理論計算およ び 高密度極限での摂動的QCDによる計算などから 指摘されている。この クォーク対の凝縮はカラー対称性を自発的に破るため、 物性系との類推から、 この現象をクォーククーパー対によるカラー超伝導現象と呼ぶ。 この時、基底状態からの励起として準粒子のスペクトルはギャップを有し、 またカラー相互作用の担い手であるグルーオンはいわゆるマイスナー効果を 通じて質量を獲得する。 一方こういった現象が果たして自然界で本当に実現しているかを確かめる ために、様々な実験あるいは観測に対するカラー超伝導現象の影響を考察する のはたいへん重要なことである。しかしこの現象は極低温かつ高密度で起こる ため、地上の加速器実験などで直接検証することは非常に難しい 。 そこで現在の所注目されているのが中性子星の内部である。中性子星は 超新星爆発に伴って形成されるがその内部は非常に高密度と考えられ、 そこで カラー超伝導状態が実現している可能性があると期待される。 中性子星の大きな 特色として冷却過程(cooling process)を挙げることが できるが、これは特に初期 の段階ではニュートリノを放出することに よって行われることが知られている。 そこでこのニュートリノに関する 様々な物理量を考察することでカラー超伝導 状態の可能性を探ろうという のがここでの狙いである。 この様にカラー超伝導現象の探求・理解は、原子核物理、素粒子物理、 宇宙物理、物性物理の 全てにまたがるという点で非常にユニークで 魅力的なテーマである。自然はしばしばある極限的な状況において 予想もしなかった様相を呈し、それを理解する過程で新たな自然法則が発見 されることがままある。本研究を通じ、究極的には「物質とは何か」 という問いにまで さかのぼれればと考えている。