青山学院大学 物理学科 コロキウム

2002年度 第5回

下記の通りコロキウムを企画致しました。 講演者の方には、学生の方にもわかりやすいご講演をお願いしてあります。 是非ともご参加下さいますよう、ご案内申し上げます。

なお、今後の予定については www.phys.aoyama.ac.jp/seminars/ を御覧下さい。 また理工学部キャンパスへの交通についてはwww.phys.aoyama.ac.jp/maps/を御覧下さい。
 

(世話人・羽田野 直道・学外からは03-5384-2642・学内からは23107)



講演者:福山 寛 氏(東京大学・物理学科)

日時: 5月24日(金) 午後4時45分から
場所: 青山学院大学 理工学部(世田谷キャンパス)1号館 5階 1538号室

講演題目:2次元固体3Heの核磁性研究の現状
要旨:約30気圧以上の圧力下で存在するヘリウム3(3He)の固体は、希ガス固体として最も単純な物性が期待される物質の一つである。 しかし、10ミリケルビン(mK)以下の超低温度で体心立方構造の固体3Heが示す核磁性は、この予想に反して多彩な様相を示す。 この系の磁性は核スピン1/2が担っており、スピン間の相互作用はトンネル効果で原子−原子交換が起こる結果生ずる交換相互作用である。 このとき原子間のハードコア斥力の効果で、少なくとも4体、恐らくは6体程度までの多体の交換相互作用が互いに同程度の大きさで競合していることが本質とされている(多体交換モデル)。 例えば、1 mK以下で観測されている4副格子の特異な反強磁性相や、磁場中で安定化する別の対称性をもった反強磁性相の存在などは、この多体交換モデルで定量的にも良く説明できる。

一方、原子スケールで平坦なグラファイト表面に3Heを物理吸着させた単原子層3Heは、ほぼ理想的な2次元固体を形成することが知られている。 その構造は面密度によって未決定の部分もあるが、ほぼ3角格子と考えて良い。 そのためこの物質は、多体の交換相互作用が競合する量子スピン系という他に、2次元3角格子という幾何学的なフラストレーションが加わった系ということができる。 実際、これまで測定された比熱や磁化の温度変化は、フラストレーションの強い低次元量子スピン系に特徴的な“スピン液体”基底状態をもつことを示唆している。 最近、久保(青学大)等やLhuillier(パリ大)等は4体相互作用がある場合の古典モンテカルロ計算や厳密対角化 計算を行い、理論的にもこの系が豊富な物理を内包していることを示した。

コロキウムでは、比較的よく分かっている3次元固体3Heの核磁性を簡単にレビューした後、他のフラストレーション磁性体との比較を交えつつ、最近の2次元固体3He研究の現状を紹介したい。


共催・青山学院大学 理工学会 物理学分科会