ゲルについて

ゲルとは

ゲルとは溶媒に不溶の三次元網目構造を持つ高分子およびその膨潤体の総称である。また、ゲルは固体と液体の中間の物質形態であり、その化学組成やそれぞれの要因によって粘性のある溶液に近いものからかなり硬い固体に近いものまで変化する。簡単に言えば、ゲルとは高分子の鎖が網目状に無限に繋がった状態のことである。
ゲルは水晶体や角膜、水晶体、ゼリー、豆腐、コンタクトレンズ、おむつ、芳香剤など身近にも多く存在し、いろいろな分野で重要な役割を果たしている。そのようなゲルを十分に理解することは、これを技術的に応用していく上で大切である。
MITのT.Tanaka等の研究によりゲルの臨界現象が解明され、ゲルのような不均一と考えられている系でも臨界現象が統一的に理解される可能性が示唆されている。




研究概要とテーマ

ゲルの体積相転移はゲル自体のイオン化の程度による連続転移から不連続な一次相転移へ変化します。現在までに、ゲルの架橋度などの変化による相図が多く示されています(図1-a、1-b)。
しかし、気相‐液相相転移のような純粋な系での等圧曲線群に対応した相図は、残念ながら現在まで得られていません。そこで私は、ある特定の組成(純粋な系)に関して、等圧曲線群に対応した相図を得るために、ゲルにかかる浸透圧だけを変化させた体積相転移の研究を行いました。また、得られた相図から臨界点を持つゲルを求め、等積比熱を求める研究についても行っております。

相転移

N-イソプロピルアクリルアミド(以下NIPAと省略)ゲルはその様なゲルの1つで、温度、溶媒組成、イオン濃度などを変化させることによって自身の体積を連続的、不連続的に変化させることが知られています。NIPAゲルの膨潤・収縮は疎水基であるイソプロピル基の疎水性相互作用によって説明することができます。NIPAゲルの安定状態における体積は、疎水基間による疎水性相互作用と溶媒のエントロピーとの競合によって決定されます。溶媒に水を用いたときには、ゲルの側鎖に存在する疎水基の周辺で水が秩序構造のようなものをとります。
低温においては、この水の秩序構造が側鎖の疎水基間の距離を安定させて、水の中で疎水基をよく分散させるので、ゲルは膨潤状態となります。一方高温においては、水の秩序構造が壊れ、側鎖間の疎水基同士が水中への露出を減らすために集合した方が安定なので、ゲルは収縮状態になります。これが疎水性相互作用によるゲルの体積相転移の原因です。相転移中のゲルでは膨潤・収縮相が共存し、密度揺らぎが大きくなり、白濁したように見えます。
また、連続的な体積変化を示すゲルと不連続的な体積変化をするゲルとの境界に、ある点で自身の比熱が発散してしまうゲルが存在します。このように、比熱が発散する相転移を二次相転移と呼びます。比熱の発散する点は臨界点と呼ばれ、そのように振舞うゲルは臨界ゲルと呼ばれます。この比熱の発散についても、純水と共存させた浸透圧=0(Π= 0:等圧)、つまり等圧比熱の発散しか求められていません。




現状

NIPAゲルの体積相転移

純粋に浸透圧だけを変化させた場合のNIPAゲルの体積相転移を測定しております。濃度などの条件を変化させても体積相転移は得られますが、それでは組成が変わってしまっています。この実験方法によってのみ、完全に同じ組成を持つゲルの等圧曲線群と共存曲線を得ることが可能となります(図2)。その方法は、ある浸透圧を持つ食塩水を入れた密閉容器中にゲルを食塩水と接触しないように封入し、NIPA ゲル中の水分子の化学ポテンシャルと容器内の化学ポテンシャルとを同じにする事によって、NIPA ゲルに浸透圧を加えるというものです。実際には食塩水の浸透圧が温度変化を持つために完全な等圧曲線ではないですが、共存領域の両側における温度差は存在しないため共存領域は厳密に求まります。また、臨界ゲルを用いて、臨界点の下側で等積比熱を測定しています。それらの実験から臨界指数を求めることで、3D-Ising Model との比較を行なっております。

現状

図2 浸透圧を変化させたときの理想的なグラフ

2008年度の現状




更新履歴:2008年10月