Mitsui Laboratory

青山学院大学 三井研究室
物理科学科・機能物質創成コース

Embryogenesis

全ての生物は最初はたったひとつの細胞(受精卵)から始まります。そこから細胞分裂を繰り返し、また個々の細胞の性質が決定されることで、それぞれの生物種特有の姿形をつくりあげていきます。この過程を「発生(development)」といい、育っていく生物を「胚(embryo)」と呼びます。では、胚は発生過程を通してどのようにその姿形をつくりあげていくのでしょうか。私たちはゼブラフィッシュという熱帯魚の胚を用いて、特に発生過程における物理的性質に着目してその謎に迫ろうとしています。

  • 心臓発生における細胞外環境の硬さの役割の解明:
  • 心臓は胚発生において最も初期から形成され機能し、血液循環を担う重要な器官です。私たちのこれまでの研究から、心臓発生過程において心臓を構成する一部の細胞が周囲の硬さの変化を感知し、自身の細胞運命を制御していることが示唆されています(Moriyama et al., Nat Commun. 2016)。そこで私たちは心臓発生過程における細胞外環境の硬さを原子間力顕微鏡(Atomic Force Microscope, AFM)を用いて直接測定し、またその硬さが細胞運命の決定にどのように関わっているかについて研究しています。さらにこのメカニズムが生物の進化の過程でどのように変化してきたか、という点について様々な生物種を用いた比較解析をおこなうことにより迫っています。

  • 原腸形成における細胞の収縮性の役割の解明:
  • 胚は発生の初期に原腸形成と呼ばれる過程を通して体のおおまかな区分けを決定します。原腸形成は細胞の移動を伴うダイナミックな過程であり、これによって胚葉(外胚葉、内胚葉、中胚葉)が形成されます。これまでの研究から、原腸形成過程においては細胞が時間的に統制のとれた様式で移動すること、さらにこの時間的制御によって原腸形成後の胚の空間的パターニングが形成されていることなどが明らかにされていました。さらに、私たちのこれまでの研究から、ゼブラフィッシュの原腸形成においては細胞の収縮性の変化が細胞の挙動と相関があることが明らかにされました。以上から、私たちはこのような細胞の収縮性の変化がどのように時間的に統制のとれた様式で制御されているか、また細胞収縮がどのように細胞の挙動の変化を引き起こしているかについて研究しています。

  • 自己組織化過程における細胞の揺らぎと対称性の破れ:
  • 生物の特徴のひとつにエントロピー(乱雑さ)が増大しない、という点が挙げられます。特に発生過程において、胚は細胞分裂に伴う細胞数の増加と、個々の細胞の運命決定という複雑なプロセスを調和のとれた様式で進めていきます。古くからの研究で、胚発生の初期過程では特定の物質の濃度勾配によって胚の極性(前後、背腹、左右など)が決定されることが明らかにされています。また、近年ではゼブラフィッシュの初期胚から細胞を単離し適切な条件下で培養すると細胞集団が自己組織化し極性が確立することが報告されました。私たちはこの現象に着目し、細胞の挙動、特に細胞の揺らぎと細胞集団としての自己組織化、そして対称性の破れ(極性の確立)の関係性について、細胞の物性的側面から明らかにしようと研究しています。

    研究内容、論文などの詳細については守山の個人ウェブサイトをご覧ください。