固体ヘリウム(3He)の磁性
3He 原子は陽子 2 個、中性子 1 個、そのまわりの電子 2 個から成る質量の小さい フェルミ粒子であり、大きさ 1/2 の核スピンをもっている。 また、ヘリウムは希ガス元素であるため、お互いの相互作用が弱い。その ため、その量子統計の効果が固体ヘリウムの性質に極めて顕著に影響し、古典的 描像では理解できない多彩なふるまいを示す。
グラファイト上に 3He を吸着させると、ある濃度で三角格子の固体を形成する。
また、スピンの担い手が核スピンであるため、多スピン交換相互作用が重要な役割
を果たしている。そのため、グラファイト上の 3He 薄膜は強いフラスレーショ
ンを伴った理想的な二次元スピン系と見なすことが可能である。本研究室では、
三角格子上の多スピン交換相互作用をもつスピン模型を、解析的手法や数
値的手法を用いて研究することにより、フラストレーションの強い系における多彩な相
転移現象の理解を目指している。
希薄磁性半導体の強磁性発現機構
半導体を用いたデバイスの開発は、従来もっぱら電圧、不純物等によってキャリ
アー濃度をコントロールし、電圧電流特性を変化させるものでした。しかし、最
近、キャリアーのスピン自由度に注目してスピン自由度の制御をデバイスに応用
するスピントロニクスが提唱され、(GaMn)As に代表される希薄磁性半導体がそ
の有望な材料として注目されています。しかし、希薄磁性半導体は優良な資料の
作成が困難なために、実験的な研究がまだ十分進んでいません。たとえば、従来
再現性よく得られている最高の強磁性臨界温度は (GaMn)As における約 110K で
あり、応用上必要な常温に達していません。この分野の発展を促すために、磁性
半導体における磁性発現および伝導のメカニズムを理論的に解明し、より機能性
の高い物質を創成するための指針を与えることがこの研究の目的です。希薄磁性
半導体には電子間の相互作用が強く働く遷移金属が含まれる事と、不純物による
不規則性があるために、従来半導体分野で広く使われてきた第一原理計算だけで
は、その本質を明らかにすることは困難です。我々は、これらの物質において本
質的に重要な要素を取り込んだ模型を構築し、電子相関と不規則性の効果を取り
込んだ理論計算を行うことにより、希薄磁性半導体における強磁性メカニズムを
解明してゆきます。