Quantum nature of persistent current

超伝導体のリングに永久磁石を近づけてリングの内側を貫く磁束を瞬間的に変化させると、電源がなくても超伝導リングに電流が流れ、その電流はゼロ抵抗である限り永久に流れ続けます(図1)。電流の正体は電荷の流れですから、これは電荷の永久運動を意味します。しかしながら、永久機関は熱力学的に実現されず、原子核の周りを永久に周回する原子内電子の運動を古典的に説明できないのと同様に、ゼロ抵抗状態を表す永久電流を古典物理学で説明することはできません。すなわち、超伝導状態は量子論で説明されねばなりません。
 量子論では、原子内に閉じ込められた電子の状態を、その状態に固有な波動関数を用いて表します。同様に、超伝導リング内の永久電流状態(すなわち、超伝導状態)も、その状態に固有な波動関数で表されます。ただし、その波動関数には超伝導体内に存在する極めて多数の電子状態が含まれていることが重要であり、超伝導状態を表す波動関数は「巨視的波動関数」と呼ばれます。この巨視的波動関数を微視的に初めて示したのがBCS理論(1957年)です。
 通常、電子は1つの量子状態に2つ以上の粒子が入れない”パウリの排他律”の制限を受けますが、BCS理論によると、超伝導状態では電流に寄与する電子が2つずつ対(クーパー対)を作り、パウリの排他律の制限を受けずに1つの量子状態に巨視的な数の電子対状態が入る巨視的な量子凝縮状態を形成します(図2)。この量子凝縮状態は超伝導ギャップの形成によって保護され、超伝導ギャップが有限である限り、超伝導状態が維持されるのです。

Meissner

図1 超伝導リング中の永久電流

Meissner2

図2 巨視的量子凝縮状態