講演者: 青木 勇二氏(都立大理) 日時: 11月 7日(金) 午後4時30分から 場所: 青山学院大学 理工学部(相模原キャンパス)L棟6階 L603室 題目:「スクッテルダイトPrOs4Sb12における時間反転対称性を破った特異な超伝導」 要旨: 充填スクッテルダイトPrOs4Sb12が、初めてのPrイオンをベースとした 重い電子超伝導体(超伝導転移温度1.85K)であることが2002年に見出 された。その後の研究により、この超伝導状態が非常に特異な特徴を 持っていることがしだいに明らかとなってきた。コヒーレンスピークを 示さないNQR縦緩和率、点ノードおよび多重超伝導相の存在を示唆する 熱伝導度の磁場方向依存は、異方的ギャップの形成を示唆する。その 一方で、横磁場μSR実験で求められた磁場侵入長や上記緩和率の低温 領域での温度依存は、等方的ギャップを示唆しており、本系の超伝導 秩序変数の解明は容易ではない。 最近我々は、内部磁場発生の有無の検証に最も優れた実験手法である ゼロ磁場ミュオンスピン緩和実験を行った。その結果、超伝導転移温 度以下で試料内部に自発的に発生した静的磁場(大きさは1G程度)の 観測に成功した[1]。これは、この超伝導状態が、超伝導であると同時 に磁気的に秩序化した状態、即ち、「時間反転対称性を破った」超伝導 状態であることを意味する。この明確な実験的観測は、金属系超伝導体 では初めてである(酸化物超伝導体Sr2RuO4についで二例目)。 磁場-温度相図の中で超伝導相の高磁場側には、他に類を見ない磁場誘起 四極子秩序相が存在していることが明らかとなった。このことは、この 四極子秩序相の近傍に存在する四極子揺らぎが、本系の特異な超伝導の 発現機構に関与している可能性を示唆しており、磁気揺らぎが引力を媒介 すると考えられる他の多くの非従来型超伝導とは異なる新たな機構として 期待される。本系の超伝導研究はまだ始まったばかりであり、解明されな ければならない多くの問題点が存在するが、特定領域研究「充填スクッテ ルダイト構造に創出する新しい量子多電子状態の展開」が今年度から発足 することもあり、今後のさらなる進展が期待される。 本ミュオン実験は、東京都立大学理学研究科・佐藤英行教授のグループ と、KEK中間子科学研究施設ミュオン物性部門・髭本亘助手、門野良典 教授のグループの協同研究として行なわれた。 [1] Y. Aoki et al.: Phys. Rev. Lett 91 (2003) 067003. * やさしい解説がKEKニュースにありますのでご覧下さい。 http://www.kek.jp/newskek/2003/julaug/PrOs4Sb12.html --------------------------------- 共催: 青山学院大学 21世紀COEプログラム